東京地方裁判所 昭和42年(刑わ)5227号 決定 1968年1月30日
被告人 K・B(昭二三・一〇・五生)
主文
本件を東京家庭裁判所に移送する。
理由
本件公訴事実は、別添起訴状の写記載のとおりであつて、これらの事実は、当公廷において、現在までに取調べた各証拠によるだけでもほぼ認めることのできるところである。(右にほぼ認め得ると述べたのは、右公訴事実中、第二の暴行の点について、現段階では、被告人の当公廷における自白と、被告人の捜査官に対する自白調書以外、これを直接的に補強すべき証拠に不充分なものがあるためである。しかしこの点に関する被告人の自白とその態度および供述内容に鑑みれば、その真実性を疑う必要がなく、その補強証拠たるべきものも、時日をかければ、必ずや取調べ得るものと思われるのであるが、本決定をなすには、必ずしも「罪となるべき事実」を厳格に確定することは法律上必要とされていないので、後記の犯情と訴訟経済を考慮したうえ、敢てこの段階で決定におよんだものである。)ところで、当公廷で取調べた各証拠(証人K・Iの供述を含む)によれば、被告人は、中学卒業後、板金工、レストランのボーイ、バーテン等の職を転々したが、この間、本件以外に格別の非行歴もなかつたうえ、右公訴事実第一、第二に言う非行も極めて従属的な立場での犯行であり、同第三の各違反事実も、当時、携つていた勤務先の集金業務に出歩いた際、その地域の道路に急坂が多かつたという地域的な事情のもとになされたものであること、および、昭和四二年九月、実父母のもとに帰住した後は、実兄K・Iの協力を得て、屋台を買い求め、独立してラーメン屋を開業し、やがて店舗を買い求めるための資金蓄積に真面目に稼働していることが認められるのである。このように、本件において被告人が果した役割やその態様と被告人自身のこれまでにおける経歴および現在の心情、家庭環境等を考慮すれば、被告人に対して刑事処分をもつて臨むことは不相当であると思料されるので、少年法第五五条に則り、主文のとおり決定する。(なお、本件につき、検察官送致の決定をした家庭裁判所においては、調査記録を作成した形跡が窺われないのでこの点付記する。)
(裁判官 門馬良夫)
参考
起訴状記載の公訴事実
被告人は、
第一、Aと共謀のうえ、森○勝○郎(二四歳)が右Aと同棲していた○波○子と情交を結んだことを知り、これをたねに右森○から金員を喝取しようと企て、昭和四一年一〇月○日午後八時三〇分ころ、静岡県熱海市○○○×××番地○○マンション内グリルにおいて、右森○に対し「人の女房に手を出すことは、どういうことか判つているのか、俺はAに世話になつている、命を張つても惜しくはない、法律なんかなければ君なんかぶつ殺したつてかまわないんだ。三日以内に三万円作れ」などと申し向け、もし要求に応じないときはいかなる危害を加えるかも知れないような気勢を示して脅迫し、同人を畏怖させ、よつて同人から金員を喝取しようとしたが同人が警察官に届出たためその目的を遂げなかつた
第二、昭和四二年七月○○日午前二時三十分ころ、三重県尾鷲市○町所在のスナック○○店舗前附近路上において、工○勉(三十二歳)に対し、同人の顔面を右手の平手で数回殴打して暴行を加えた
第三、公安委員会の運転免許を受けないで
1 昭和四二年六月○○日午後四時一〇分ころ、前記尾鷲市△町○丁目○○番地附近道路において、原動機付自転車を運転した
2 同月△△日午後二時五〇分ころ、同市○○町○丁目○番地附近道路において、原動機付自転車を運転した
3 同年七月△△日午後三時二〇分ころ、同市△△町弁財県道熊野○○線において、原動機付自転車を運転した
ものである。
編注 受移送家裁決定(東京家裁 昭四三(少)一二九二号 昭四三・四・三〇決定 保護観察)